妄想話

肩身の狭くなった人類のいきかた

世の中は、自分の代わりにAIロボットに働いてもらって生活収入を得る人間と、自ら働く人間とにわかれている。 前者は富裕層であり、後者は私のような貧困層でその差は激しく大きいが、上流階級への憧れなんぞはとうの昔に捨てている。 早くも労働の場にロボットがはびこるようになって20年ほど経...

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『FUKUMIMI』

ずっと愛用してきた「歩調器」が壊れたみたい。 いつものように目覚めて直ぐ、耳元にセットして起動してみたのだけれど反応がない。 とりあえず制服に着替えてみるものの、怖くて自分の部屋から出られない。焦る。 歩調器はなかなか高額なものだというのに、国内では着用率が90%を超えているそう...

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ゆびわのいえ

 「ゆびわ」をなくしていることに気付いたのは、タワー型登録借地を昇った後だった。 がらんとした平地を前に、左薬指を見つめて呆然としていた。 「ゆびわ」が手元にないということは、身に着けているもの以外のすべてを失ったということになる。 電話も財布も、わたしの身分を証明するものも何も...

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宇宙飛行士のうた

ー ○○さん、宇宙飛行士として、  宇宙から地球を眺めた今、思うことはありますか? - 「…あのですね…たぶん、それなりに言葉を用意してきたはずなのですが、それが今の心境に合わないからでしょうか…。 ごめんなさい。やっぱり、それらしい言葉が出てきません。 …あぁ、でも本当にね。 ...

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遺思~妻とまだ見ぬ我が子へ~

二人で、静かに食事をしていた。 少し離れたところで、テレビが音を立てている。 ニュース番組は「少子高齢化問題を抱える政府の試み」と題して、ある一組の老夫婦を取り上げていた。 その夫婦は、子どもを育てるだけの経済的余裕がないままに結婚し、30年が経過している。年齢的に考えるとすでに...

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雨上がりのあしあと

 ー わたしが   いじめに遭う 理由にたどりつくまでに   死ぬことにした ー    ・ ・ ・ ・   突然。 体に衝撃を受けて、倒れ込んだ。 誰もいないと思っていた廊下の影から、スカートを揺らしながら足早に三人の影が去っていった。 世の中では、いじめに遭う人は周り...

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深海図書館

  歪(ひずみ)というものがある。 どのような世界にも、ありとあらゆる、なにごとにおいてもだ。 この海底はきっと、そういった場所の一つなのだろう。 ゆっくりと、まるで花びらが海中を舞うかのように。 光を揺らしながら、一冊の本が降りてきた。 ようやく、安息の地に巡り合えたのだ。 ど...

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とびだしくん

  子どもの手をとり、行き交う車と距離を取る。 横断歩道の前で、信号が切り替わるのを待つ。 「…おとうちゃん」 私の娘は最近になって車を怖がるようになってきた。 不安そうな顔で見上げてくるので、つないでいる手を大きく上下に揺らしてみると少し表情が和らいだ。 目の前を忙しく横切る視...

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遅ればせの育児

拾い損ねた空き缶が足元に転がった。 重い腰を屈めると自分も老いたものだと思い知らされる。 これまでにわたしが飲み干したビール缶は、何千本くらいに及ぶのだろう。 振り返れば、それぞれの場面には必ずお酒が絡んでくる。 仕事終わりに、寝る前に、休日に。365日、それを何年も繰り返した。...

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ならず者たちの巣くう島

この世の中には様々な国があって、肌の色や目の色、話す言葉が違う人達が集まって一つの世界で生活をしている。 そして、各々の国で蔓延っている歴史に文化、宗教というものがあることをわたしは知っている。 …島から一歩も出たことがないのに。   ー ー ー ー   わたしがこの小さな人工島...

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誓いの言葉

小さい頃は、ただ生きてさえいればいつか結婚して、どこにでもあるような家庭を築いていくのだろうと、たぶんそんなことを考えていた。 それは誰にでも平等に、じっと待つまでもなく、いずれ自然と訪れるようなものだと思っていた。 でもいつしか、それがただ出席さえしていれば進級資格を得られるよ...

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海をたゆたふ

人が「人とは異なる生物の遺伝子」を身体に取り入れて、新たに違う人種となること。それが神の意志に反する行為だと多くの者がいう。 小さな頃、人間は違う生き物の遺伝子を口にすることで生き永らえているのに、その消化された生物がはっきりと目に見える形で身体に現れないことが不思議で仕方がなか...

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「この子」のいる書店

それはある日、この小さな書店の中へ飛び込んできた。  少し遅いお昼ご飯を食べ終わり、店番をしていた妻と交代したところであった。 いつも通り、時刻は二時を過ぎた頃であっただろう。 その時は、確かに店の中に客は一人もいなかったはずだ。  「おい、居るんやろ?」  店の入り口の方から、...

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俺の人生を超えて逝け

  今や先人の知恵や技術などは、お金さえ出せば簡単に手に入る時代になった。 お気に入りの音楽を聴くように、気になった本を書架から一冊抜き取るように。 国民は祖先が代々受け継いできた能力を引き継ぐ権利があり、この先の国の未来へと紡いでいく義務があるのだ。 もはや「伝統」という言葉は...

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とんぼのめがね は きみいろめがね

一台の小型ロボットが部屋の片隅で羽を休めている。 時おり頭をころころと傾けては、今日もプログラム通りに『トンボ』を演じている。    ー ー ー ー 昔、ボクが幼い頃のことだ。 おもちゃメーカーが子ども用に手掛けた昆虫ロボットが流行った時期があった。 「カブトムシ、クワガタ、トン...

妄想話

昼下がりの午後、病院にて。

この国の医療はコンピューターロボットが全てを担っており、 診察、手術に関しては24時間365日行われている。 病院の正面入り口を入ってすぐのロビーにボックスがいくつも並んでいる。 ボックスの中には一台のコンピューターと椅子が置かれている。 個室に入り、診察券をモニター横のリーダー...

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断片的な彼女

「テレビってさ、深夜帯で面白かった番組がゴールデンに移ったら、何でだろうね。おもしろくなくなる気がするの」 「そう?気分的なモノもあるんじゃない?」 「寝る前の時間帯と、その…皆さんがお食事なさってる時間帯の?」 「そうそう。実験してみようか?それぞれの時間帯の番組をいくつか録画...

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幸せの表現

「高額当選宝くじが欲しい」 そんな思いを抱くのは、きっと以前からもそうであって、この身体が発する異臭のせいではない。 本気でそう思い、そう願うのかと問われるならば当然だと答えるが、ではそれで今のあなたは幸せになれるのかと続けられると自信がなかったりする。 「その人に見合わない...

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創造の神

  音楽(リズム)と実験が好きな神がいた。 その集大成として生態系を造り、主に「地球」という星の観察に重きを置いていた。 しかし実験の最中、意見を述べる人間という生き物が鬱陶しいと感じ始め、一先ず声を取り去った。 途端に彼らは混乱に陥りスピード感がなくったが、すぐさま生意気にも文...

妄想話

ふっかつのじゅもん

「では、こちらへお座りください」 「これから、こちらの薬をお飲みしていただきます。前々からの説明の通りになります」 「えぇ。飲んでいただいた30分後、仮死状態に陥ります」 「はい。大丈夫ですよ、説明の通りです」 「えぇ、リラックスした状態の方がより記憶が文字へ変換されやす...

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セツナ

確かはじめの頃は「切り込みのセツナ」と呼ばれていた。 それが「死にたがりのセツナ」から「不死身のセツナ」に変わり、今では「死神のセツナ」「死神」と呼ばれ、敵に恐れられるようになった。 今や敵味方を含めて彼女を知らない者はいないだろう。 彼女は常に先陣を切って戦っていた。 所属して...

妄想話

あの俳優の、人には言えない趣味

芸名は「物部 大河」現在30歳。 特撮ヒーローのオーディションで受かり、18歳で俳優としてデビューした。 3年前から、活動の場を国内ドラマからアジア映画の世界へと移しはじめ、来年からは英語圏での映画撮影が始まる。 年々多忙になっているとは自覚しているが、そこは幼い頃からの趣味が...

妄想話

石像の母

ー わたしの目の前にいるだろう、愛しい娘。 あなたには今、わたしのことがどのように映っているのだろうか ー  前日から降り続いた雨が止んで、雲ひとつない青空が広がっている。 わたしは一歳に満たない、幼いわが子をベビーカーに乗せて外へ連れ出た。 近くのスーパーへ買い物に行った帰...

白い空間『 』

白い空間『努々』

真っ白な世界に扉が現れた。 いつも通り、現実の私は眠りに入っているのだろう。 しかし、これは皆が思い浮かべるような夢ではない。 この扉は別に存在する、不思議な世界への入り口だ。  ー ー ー ー ー 白い空間を彷徨った先。 目の前に現れた扉を抜けた瞬間に、私はそこで作業に没頭して...

妄想話

息継ぎのいらない休息

帰宅して、食事を済ませ、さて一息つこうという時になると決まって浴室に移る。 服を脱ぎ、裸になり、栓をしただけの浴槽に入る。 そこから、おもいきり蛇口をひねる。 勢いよく水が浴槽に広がっていく。 足を十分に伸ばせるタイプの浴槽の底へ、背中を合わせる。 徐々に溜まっていく水。その圧力...

妄想話

金銭トレードされた、ある日の『流れ社員』

 終身雇用という言葉も死語となり、昔と比べればずいぶんと変わった形の労働スタイルが生まれている。 とはいえ、やはり自分の身をそこへ投じてみると戸惑うことも多々ある。 「あー、渡辺君?」 「はい」 「悪いんだけど、明日から栄耀県に行ってくれる?」 「は…?」 「は?じゃな...

妄想話

ノストラなんとかの大予言

巨大な隕石の襲来は、300年前に観測予想されていた。 人類滅亡の危機は、何世代にもわたって知力を合わせた結果、何とか回避できた。 徐々に削られ、いくぶん小さくなった隕石。 それが昨日、直近のひと月前に公表されていた場所へ、予想時間通りに落ちたのだ。 警報が解除されたので、私はこれ...

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ありとあらゆるぶぶんが緩む

あぁ、この人は本気で怒ってるんだなぁとは思った。 耳をつんざくような大きな声で、中年の女性が怒っている。 でも、なんでこんなに怒ってるんだろうか、私の目の前で。 自分が悪いのだろうか。 その原因を覚えていない。 ぼんやりと遠くの方から、私を批難する声が聞こえる。 もごもごと返事を...

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誰だょ…こんな嘘発見アプリ作った奴…「あなたの真心がわかっちゃうんだもの」

スマホを私の方へ向けたかたちで、玄関先で彼女と向き合った。 「だいたい3週間ほどだったかな。会話データの『収集完了!』が表示されたのは。密かにね、はじめていたの」 目の前にいる彼女の言葉の意味が、さっぱりわからなかった。  ー ー ー ー あの日は五日前だった。 同棲中の彼女は、...

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「箱庭まいぺっと」

深夜の静まった家々の脇を、重い体を引きずるようにして歩いていた。 そういえば最近、太陽の光を出勤時間以外では浴びていないことに気付く。 仕事場ではパソコン画面とにらめっこし続け、休憩に食事も落ち着いてとれない。 その上に残業を連日続けているとさすがに身も心も病られていくのを感じる...

妄想話

「一緒にお風呂に入らない」と言った日から

「さすがにまだ小さいから、まだ一緒にお風呂に入ってあげてるよね?」 仕事帰りにスーパーで買い物をしていると、そんな会話を耳にした。 傍に子どもを連れた母親同士が話をしている。  わたしの場合は、まだ思春期に入るずいぶん前だった。 お風呂に入ることがどこか面倒なことに思え、...

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「peephole」~のぞき見されるモノとするモノ~

 わたしは今、プライベートのない部屋で生活している。 「peephole(のぞき穴)」に身も心も預けてしまってからというもの、わたしは全て覗き見されてもおかしくない状況下にある。 ここで生活するにあたって与えられた名はメアリー。 ご主人様にいただいたニックネームだ。 目隠しされ...

妄想話

深夜の雨が奏でる記憶

以前からも、もしかしたら聞こえてきていたのかもしれない。 今までずっと意識しなかったそれが、今夜はなぜか気になっただけなのかもしれない。 天気予報はあたった。深夜からの雨に見送られ会社を出た。 終電に乗っていると、意外と人が乗っているものだと時々思うことがある。 そういう時は自分...

白い空間『 』

白い空間『告白』

お願いがあります。 どうか聞いてください。私の話を。 誰にも言えない秘密を抱えて、小さい頃から生きてきました。 でも今日は、その秘密をあなたに打ち明けることで「楽」になりたいと思います。 私には、物心付いた頃から不思議に思っていることがありました。 それは私が寝ている時にいつも起...

妄想話

幸せな国にあるパッカー車

ストレス物質が解明され、対処法が確立された昨今。 この国の朝はとても穏やかだ。 おやすみ前にカプセルを一錠飲むだけで、翌朝すっきりと目覚めることができる。 一日の生活で蓄積されたストレスは、翌朝の枕元へ転がっている。 カプセルを服用すると睡眠中にストレスを含んだ呼気が集まり、一つ...