「では、こちらへお座りください」
「これから、こちらの薬をお飲みしていただきます。前々からの説明の通りになります」
「えぇ。飲んでいただいた30分後、仮死状態に陥ります」
「はい。大丈夫ですよ、説明の通りです」
「えぇ、リラックスした状態の方がより記憶が文字へ変換されやすくなりますので。このマシーン。これまで一度も不具合は起こしていません。問題ないですよ」
「では、そちらのグラスにお客様が選択されました、こちらの導入剤入りのビールを注がせていただきます」
「いえ、私は勤務中ですので」
「よろしいですか?では、お飲みください」
「…半分ほど残っていますが、よろしいですか?」
「では、次にこのヘッドホンを当ててもらいまして、えぇ、深い眠りへ誘ってくれますよ」
「それではごゆっくりどうぞ」
ー ー ー ー
「お目覚めになられましたか? 」
「二時間ほどですかね。皆さん、だいたいそのくらいの時間ですね。 無事に成功しましたよ」
「えぇ、お客様のこれまでの人生をあらゆる角度で分析し、それを文字としてコンピュータの方へデータを転送させていただきました」
「そうですね、お客様の指定された作家風の文体に仕上がっています…が只今、この仕上げ作業、予約でかなり混み合っておりまして…」
「えぇ、そうなんです。なんせ72年分の記憶ですので、かなりのページ数になります。なるべくわかりやすく編集させていただきますけども」
「えーとですね…。製本作業に入るまでに二か月ほどかかります。 原稿となるデータはお渡しする納期まで当社の倉庫にて大切に貯蔵させていただきます」
「えぇ、あの有名な、人類が滅んでも残るだろうと言われている例の倉庫です」
「あ、それからですね。少し、印字されなかった部分が、実は一部ありまして…。」
「えぇ、無意識のうちにご自身で仕舞い込んでしまう記憶等は長い人生の中ではよくあることですよ。ここはデリケートゾーンですので、別のマシーンにて慎重に記憶を掘削して埋め合わせさせていただきます」
「はい。本日はご利用ありがとうございました。また納期がつかめ次第、連絡させていただきますので…」
ー 三週間後 ー
「あがりました。おそらく43年前の事件の犯人ですね。 この消されていた部分の前項に記憶の封印作業の断片が見てとれますので。 これから確信を得る為、更に分析を進めます」
「あ、犯人はまだ自分で記憶を誰かに依頼して操作したことに気付いてないですよね?」
「え?そうですか。遅かったですね、突然死ですか。 思い当たる覚えがなくても、久しぶりに掘り起こされた記憶のどこかで、もしかするとやましい気持ちが体を蝕んでいたんですかねぇ…」
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