ノストラなんとかの大予言

2016-03-27

妄想話

巨大な隕石の襲来は、300年前に観測予想されていた。
人類滅亡の危機は、何世代にもわたって知力を合わせた結果、何とか回避できた。
徐々に削られ、いくぶん小さくなった隕石。
それが昨日、直近のひと月前に公表されていた場所へ、予想時間通りに落ちたのだ。

警報が解除されたので、私はこれまで通りの日常へ連れ戻されることとなり、早速、勤務先へ向かわねばならなかった。

「…あらかじめ避難区域に指定されていた場所には、このように巨大なクレーターができており、今もなお砂埃などが立ち上っていて薄暗く、中心部は目視では…」

交差点で信号待ちしている間、見上げた先にあった屋外ビジョンからニュースが流されていた。
この隕石の墜落による被害者はゼロだと告げている。
でも、それは嘘だということを私は知っている。 

 ー ー ー ー


警報は墜落予想日の前後3日間にわたって発令され続けた。
原則として外出禁止だったが、窓の外を見れば車がはしっているし、人も歩いているのが見てとれた。
連日の残業が続く日々の中で、私は食料の確保に完全に乗り遅れてしまい、大した備蓄もなく自宅待機しなければならなかった。
賞味期限を気にせず、いろいろと在庫処理をこなしてみたが、ちょうど隕石が落ちると予想された日に食料が尽きた。
とりあえず何か腹に入れようと、食料を求めて外を出歩く。
外で目にする人たちは必要に空を見上げた。
私もつられて空を見上げる。
それをみた他の人もちらちらと顔を上げるのが面白かった。

当然のことながら、食料品を扱う名の知れたスーパーなどは開いているはずもなく、個人で展開している飲食店ならもしかしたらと思い、ふらふらとさまよってみたのだが、そもそも食べ物屋以外にも全ての店が開いていない。
それなりの道を歩けば自販機はいくらでもみつかるのだが、どれもこれも売り切れランプばかりが並んでいる。
二駅分ほど歩いたところで、のどが渇いてきたので公園に入って水を飲んだ。
水なら家の中でも手に入るというのに。
でも、悔しいがおいしい。
歩き回ってさらに腹を減らし、いったい私は何をしているんだと空しくなり、帰ることにした。


 ー ー ー ー



帰り道、幼なじみの友人のことを思い返した。
彼はほんとうにあの場所へと向かったのだろうかと気になった。
彼とは昔から年明けに「年賀はがき」ではない「官製はがき」で新年の挨拶をするという妙な儀式があった。
毎年、300年前に発見された「隕石墜落まであと○年○○日」とお互いに記していたが、その数字がいよいよ今年を示す値となった新年の朝、私は自宅ポストの前ではがきを手にしばらく凍りついた。
いつも通りの「官製はがき」ではあったが、そこに書かれていたのは「別れ」だった。
その別れは私に対する別れでもあり、この世界との別れでもあった。
彼は病気を患っていて、これまでに何度も手術を受けていた。
それはこれまでのはがきのやり取りで知っていたことだったが、余命を医師から告げられるほど症状が重くなったと書かれていた。

「もしも隕石がやってくる頃まで生きていたら、最後に僕は隕石を間近で感じて逝こうと思う」 

何か言葉を交わしたかったが、そのはがきを何度も読み返すばかりで、結局今日まで来てしまった。
もともと多くを語り合うこともなく、でもなぜか二人してお互いを気にかけては連れ添っているような仲だったが、結局こういう時でもそのまま変わらずな二人だった。

 

 ー ー ー ー

 

年が明けた。
数枚の年賀状の中に、官製はがきが一枚あった。
郵便ポストに投函したはずのはがきが戻ってきたことは、初めてだった。
私が彼に宛てて出したものが「宛先不明」で戻ってきたのだ。

「やぁ。また年が明けたね。

 なんでだろうな。最近、なぜか幼いころのことをよく思い返す。

 ずっと大昔、ノストラなんとかとかいう予言者の大予言があったと君が教えてくれた。

 多くの人たちはその予言が外れたと思うや否や、その予言を、そして予言者を瞬時に忘れ去ったと言っていた。

 君は「そいつがかわいそうだから俺たちが覚えておいてやろうぜ」と言って笑っていた。

 …なぁ。君は今でも覚えているか?

 俺は忘れかけていたよ。

 確かあの時、二人で互いに予言し合った。

 一つじゃない。

 その場で思いつく限りを、いくつもいくつも予言したはずだ。

 でも、それを今は一つも思い出せないんだ。

 もし君が覚えていたら、気が向いたときにでも教えてくれないか。

 あぁ。

 この新年の挨拶を書いていたら、君との思い出がまた一つよみがえった。

 来年はそのことを書くことにするよ。

 

               ではでは、またな。   」