妄想話

「人間国宝の機嫌」

山陰の湿った風が、古い作業場の格子戸を揺らしていた。 薄暗い部屋の奥、欅(けやき)の巨木と向き合う人間国宝・貞治(さだじ)の前に、それは静かに佇んでいた。 多関節のしなやかなアームと、無数の光学センサーを備えた自律彫刻システム、コードネーム「瑞雲(ずいうん)」だった。 「これが、...

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『プロスペア口座』

※本作は、投資制度の仕組みに潜む感情的な罠と、市場の冷徹な構造をテーマにしたフィクション短編です。架空の資産形成システムを舞台に、大衆心理の推移を描いた創作物としてお読みください。 ー ー ー ー ー 経済研究所が発表した一篇の報告書は、市場の熱狂とは対照的に、静かな警鐘を鳴らし...

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月の裏側で

雨上がりの駅のホームで、男が泣いていた。 誰か近しい人が亡くなったのかもしれないし、仕事がうまくいかなかったのかもしれない。 理由はわからない。 ただ、涙の粒がコンクリートに吸い込まれていく様子に見とれていた。 その瞬間、思い浮かんだのだった。 「この場面、もし月が昇っていたら、...

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夜を訪ねた一夜

夕暮れが迫れば吐く息の白さも暗闇に溶けていった。 大きな御神木を背にして、下から登ってくる小さな灯を待っていた。 大事な話と合わせて、何かでそれを形にしようと考えてみたものの、そのどちらも定まらぬままここにいる。 村人の先祖代々がどんなに遡ってもずっと昔から大きかったと言って祀ら...

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として、

ある朝。 なんて切りのいいタイミングなんてないさ でもその瞬間にゼロになった 戸惑いながらも生活は変えられない 心臓は急には止まらない お金も 関係性も ゼロになっちまったこの朝を テレビもネットニュースも 整合性チェックに大慌てで 玄関出て 決心して いくべき場所...

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」産声「

気が付くと、灰色の地表の上にたたずんでいた。 後方からの風が背を撫で、前へ向き直す。 振り返ってみると、足元の先、灰色の上に白いラインが引かれている。 そのラインは左右に伸びていた。 この薄暗い世界を一周しているかのように延々と伸びていた。 先ほどからやってくるこの微かな風は、...

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「World Unite Games Olympia」

「World Unite Games Olympia」宣言 「私たちは、世界中の人々がつながり合い、個人の運動参加の自由を尊重することを誓います。誰もが自らの選択で競技に参加できるこの祭典を通じて、全ての人々に平等な機会を提供し、スポーツを通じた国際的な友...

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信用通貨「オラクル・ベリー」

かつて、世界は大きな変革を迎えた。人々の生きざまがスコアとして数値化され、そのスコアが信用通貨「ベリー」として社会を動かす時代が到来した。 この信用通貨は、元はベーシックインカムの一環として導入されたものであった。 しかし、その対象者である、監視生活を送ることを余儀なくされる者た...

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もぐらたたき

幼い頃の私は誰にも心を開かず、言葉を発しなかった。両親は私の将来を心配し、あらゆる病院を訪ね歩いたが、どこへ行っても私に変化の兆しは見られなかった。周りの子が学校に通い始めても私の心は閉ざされたままだったが、その頃には自らの意思で外界と接点を持つことを望んでいなかった。 困り果て...

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無職の証明

ある日、タナカは市役所からの通知に従い、指示された市役所の離れに向かって歩いていた。無職であることを証明するためにだ。しかし、担当の職員は「書類で無職を証明しないでください」と言い張る。タナカは困り果てたが、どうにかして無職であることを伝えようと決心した。 タナカは大きくあくびを...

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ブレインエクスチェンジャー

酒類も禁止薬物扱いになった昨今、相変わらず精神疾患が現代病としてはびこっている。 脳波をコントロールして鬱や不眠症状を改善する医療アプリとして認められているものがあったが、巷ではそれを改造した「ブレインエクスチェンジャー」なるアプリの使用が事実上黙認されている。 瞬時に眠りに入る...

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「あの、閻魔さま、」

痛いのは嫌だ。誰かを悲しませたり、困らせたりするのはごめんだ。 そして、誰かを喜ばせるのも…。 でも、なんとなく今、生きているのがつらくて嫌で。 こんなことは考えなければいいのに。何かの拍子で他に意識が行っても、またこの考えの続きに戻ってきてしまう。 そういえば、昔のことを振り返...

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隠しもの

…どういうことでしょうか、娘がクリーニングに出したのだと。 この数日間、ずっと、そう思っていたのでした。 ぼんくらな私。 こんな語り口調では、何に臨んでも誠意が感じられない、覇気など皆無、アナタは誰かを一瞬たりとも愛したことがないのでしょう、冷たく冷めた人間と同じ漢字を二回繰り返...

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優しい世界への岐路

人体の秘密、不思議が昨今、急速に解明されつつある。 特にこれまで大まかにしか分類できなかった体調不良、不具合に医学的な病名が付き、病気として社会に認知される流れが強く起きている。 これは診断技術の革新。医療AIがあげた功績だと断言できる。 AIによる身体の探索は詰まるところ、我々...

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ちいさな嘘

「誰にもいえない秘密を持たなくして死ぬひとなんているのかな。  自分だって。  ねぇ。  きっと、弟だってそうだったはず」  ー ー ー ー 長期休暇、まだ日が昇る前の登山道をひとり、汗をかきながらたらたらと登り歩いていた。 幼いころ、近郊の山への登山は家族にとっては恒例のイベン...

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依存症の雨の過ごし方

日曜日の朝は、なぜに目覚めた瞬間に休みだと理解できるのだろう。 あぁ、煩わしい。頭痛がする。 一本だけ蓋の開いていない缶がリビングの脇に転がっている。 そうだ。 飲み口を開けず、そのまま口元に持っていって歯をぶつけた。 酔っ払いを鼻で笑い、まぁでも、これくらいの量ならばアルコール...

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闇の語源と催眠術

他人の生き方を肯定するということは、自分のいまの生き方を否定することにならないか、という一文を、読みかけの本の中にみつけたあたし。 他人に当たる人物とは。 職場の人間がピラミッド型に描かれた人物相関図を脳内に広げて、その中からその他人に適合する人を思い浮かべてみた。 すると思いの...

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悲しみの淵

「ひさしぶりだね」 小さな山の中腹にある、誰も居ない、誰が管理しているのかも知れない。 そんな 教会の前にある朽ちたベンチに腰をかけて。 暮れていく街並みを眺めていたら背後からそんな声が聞こえた。 「また、さがしもの?」 淡々と話しかけてくるその声に対して、返事はいつも通り...

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とある、立ち位置

「彼は突っ立って背を向けたまま、何をかちゃかちゃと手元を動かしているんだろう。水をそんなに流し続けて、彼はいったい何をしているのだろう…ってきっと、そう遠くない未来に生きる、未来人に好奇の目で見つめられている真っ最中なんだと、ボクはそう思うね」 「急に不満げな顔で振り向いて何な...

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ひよこばってりぃ

ピヨピヨという鳴き声が、暗闇の先にある扇風機の土台部分から聞こえてくる。 肌寒いこの季節、そのけったいな扇風機を回すことには一つの理由があった。 預かった洗濯物を、この一晩の間に急いで乾かさなければならないのだ。 そして、その他人の洋服を明日の朝に持ち主の元へ届けなければならない...