記録によると、世界中の監視カメラを分析してもその瞬間は捕えられていなかったらしい。
地球上の同一時間。
一瞬にして透明ブロックが、海と大地の表面をおおったという説がまかり通っている。
その瞬間の映像が一切残っていないだけでなく、その瞬間のことを記憶している者もいない。
飛行機に乗っていたり、宇宙空間に飛び出していた飛行士などとはその時から連絡が取れなくなった。
上空から降ってきたという説もあるが、誰にも確認の仕様がない。
限りなく透明に近い、一立方メートルのブロックが地表から5mの高さに浮いている。そこから更に縦に5つずつ、それがぐるっと一周、世界の全ての大地に隙間なく敷き詰められているそうだ。
5mを超えた木、小山、人工建造物等は、それをおおうようにブロックが包み込んでいる。
どんな物質でこのブロックが出来ているのか、300年以上経った今でもわからない。
誰一人としてこのブロックの上を歩いた者がいないために、全面が同じ成分なのかどうかもわからない。
それでも、太陽光を通せば雨も通す。
見た目はただのプラスチックのようだが、人類が保持した最も威力の高い爆弾でも破壊できないだろうというテスト結果がでている。
上空を見上げると無色透明のブロックがはるか上空に突き出ている部分がある。
ブロックが現れる直前にまで建っていた建造物の面影だ。
既に長い年月を経て、当時建てられた全ての建物は朽ちている。
残ったのが上空へそびえ立っていたであろう建造物の輪郭を思わせる、あのブロックのでっぱりだけだ。
虫がブロックをすり抜ければ、その虫を追って鳥がブロックの中を横切る。
通り抜けられないのは私たち、人間だけだ。
この謎のブロックに人類が蓋をされた日から、人は空を飛べなくなった。
今現在の人類の生活は、極端に不自由になったものの、以前よりも自然と共存しているらしい。
人工衛星は流れ星となり海へ消えた。
そのかわりに天気や上空からの映像を教えてくれるのは調教された鳥だ。
小型船舶しか使えなくなった今、海では望まれる漁獲高を得る方法として調教されたイルカによる追い込み漁が主流となっている。渡航の際にも航路をイルカにナビゲートしてもらっている。
石油資源の採集は滞った。
地表、海面から下へ5mしか掘り進めることが出来なくなった。
ブロックは上空だけでなく、目に見えない下方向にも存在していたからだ。
もぐらの調教は失敗し、今はバイオ燃料が主流だ。
300年前、人が生きる世界は縮まった。
だがその分だけ密になったと言われる。
インフラが老朽化し、一時は人類滅亡の危機に瀕したが私たちは生き延びた。
昨晩、夢を見た。
2人の子どもがなにやら作業をしている。
近づいてみると、声が聞こえてきた。
どこかブロック壁に空きがないかと探し回っている。
ローラーの付いた高い脚立を1人が押しては支える。
脚立の上ではもう1人がブロックを触って調査している。
1平方メートルごとにブロックを探っている二人の姿に思わず笑ってしまう。
自分の笑い声で目が覚めた。
夢だったのだと気付く。
「途方もないことを」
夢の二人が小さい頃の私と弟だったことを思いだし、もう一度笑い出す。
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