ー ○○さん、宇宙飛行士として、
宇宙から地球を眺めた今、思うことはありますか? -
「…あのですね…たぶん、それなりに言葉を用意してきたはずなのですが、それが今の心境に合わないからでしょうか…。
ごめんなさい。やっぱり、それらしい言葉が出てきません。
…あぁ、でも本当にね。
人生、本当になにがあるかわからない。
まさか自分が憧れていた宇宙へと旅立って、こんなにすばらしい景色を眺めることが出来るだなんて、夢のようです。
こんなことを今、こういう場で口にするというのは変だと思いますが、自分に死が訪れたら、この宇宙で眠りたい。そう思います。
あ、地球で待っている友人に縁起でもないと怒られますね…」
ー ー ー ー
「順風満帆に航海を進めていたようにみえた誰かの人生も、たった一つの過ちや事件に巻き込まれたりして、あっという間に沈没することだってあるし、些細な雨風のような出来事に神経をすり減らし、おびえながら近海をうろうろしている間にたった一つの人生を終える人だっている。
他人にどう思われようと、本人がそれで幸せだと感じるのならば、それはそうなんだろうし、不幸せだと思うのならば、他人からどんなに羨望の眼差しで見つめられようと、きっとそうなんだろうと思って、あの頃は生きていました。
結局は何を選んで人生を歩もうと、その人の勝手だし、もしも他人の指示通りに生きるのがいいというのならば、それもまたその人の自由なのだと。
限りある人生ってのは死ぬまで何があるかわからないのだから、その日その日を一生懸命に…と真剣に意識して生きていたかというとどうでしょうか…という感じですが、それでも授かった自らの命は全うしたいものだと度々思って生きていたものです。
…いや、しかし。
まさか死んでからも何があるかわからないのだから、などとはさすがに考えが及びませんでした。
この星で再び生を享けた時、わたしは一つの流れを悟りました。
地球という名の小さな星で、わたしは生まれ育ったのですが、そこでは海水が暖かな陽に照らされ上空に昇り、そこで冷やされて無数の雨粒になり、それが大地に降るという天候があります。
その雨粒を受けた一枚の葉から、滴り落ちた一滴の雫が寄り集まって、やがて川となる。脈々とそれらが流れ集まり、いつしか海へと還る。
何事にも始まりがあって、終着点があるように見えなくもない。
でも、こうして地球という小さな星の一つの自然の摂理をみても、実は始まりも終わりも同じなのだと、ふと思いついたのです。
すべては廻り廻って、元ある場所へと還る。
私はこの星で再び目を醒まし、ようやくそのことに気付き始めたのです…。
宇宙は広い。
そして、神秘に満ち溢れていた。
それはとんでもなく広大で終わりがないようにも感じられる。
でも、それでも宇宙の摂理もやっぱり小さなあの星と同じなのだと。
綺麗な円を描くようにして、循環している。
わたしはそのことを伝えるため、来月、地球に宇宙人として降り立とうと思います」
ー 地球人が、小さな地球という枠の中にとどまっている時代を、やっと抜け出す時が来たんだという、元地球人の○○さんによるスピーチでした ー
ー ー ー ー
大きな拍手に包まれながら、壇上を後にする。
再び命を宿した今、以前よりも何か不思議な力を得たような気になったりもする。
でも、こうして誰かに想いを伝えるという場が相変わらず苦手だ。
昔居た、あの小さな星の知的生命体から見れば、この会場を埋め尽くす異形の姿をした他星の生命体達を宇宙人だとひとくくりにするのが精いっぱいの受け止め方になるのだろうと思う。
資源も科学技術も乏しい地球では、それらを図る手段が余りにも制限されているからだ。
まさに、発展途上星といえる。
わたしが行って何かを変えられるなどとは思えない。
ただ、あの頃感じていた、当たり前のようにして陽が昇っては沈み、夕暮れ時になれば月が顔を出し、その脇では星が流れているという繰り返しの日々でさえ、全ては寛大な宇宙の恩恵だったのだと、何らかの形で地球に残してきた者達に伝えたい。
それだけだ。
ー ー ー ー
ー 時を遡ること数十日 ー
「…おい、また地球人の奴らが宇宙ゴミをまき散らしているぜ…」
「衛星の一つでも、小突いて落としますか?」
「…君、冷静な顔して言うね」
「冗談です、よしましょう。
でも、偵察に来る度にゴミ拾いして帰るのもどうかと思いますね」
「この星の人類種が元凶らしいが、自分の身の回りだけ綺麗ならそれでいいと考える身勝手な生き物らしい」
「視野の狭い奴らですね。いつまでも一つの星にこもっていればいいんです。
こんな者どもとは共存したくありません」
「…まぁ。でも、これからも君が担当する星だぞ?」
「そうなんですよね…。
本当に先が思いやられますよ。
実は先日持ち帰った宇宙ゴミの中にこの星の生物の『遺灰』があったんですね。
宇宙ゴミ以外は持ち帰ってはいけない決まりだったのですが、そこに偶然にも紛れ込んでいたみたいで…」
「…君、本当は『遺灰』だと知っていて持ち帰ってないだろな?」
「いや、だって蘇生させたら面白そうでしょ?すでに今、上層部にいる話の分かりそうな元上司に打診しているところなんですよ!」
「…お前、この仕事、絶対楽しんでるよな…」
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