ならず者たちの巣くう島

2016-09-18

妄想話

この世の中には様々な国があって、肌の色や目の色、話す言葉が違う人達が集まって一つの世界で生活をしている。
そして、各々の国で蔓延っている歴史に文化、宗教というものがあることをわたしは知っている。
…島から一歩も出たことがないのに。

 

ー ー ー ー

 

わたしがこの小さな人工島で生きる理由。
それはわたしの祖先が、とある罪を犯したことによって下された判決が原因であって、そして始まりだ…と親の世代からは伝えられている。
この島にいる者たちは社会的に抹消されたものばかり。
死刑制度がなくなった世界で、極刑として用意されたものが「島流し」だったが、やがて社会的に問題とされる人格だったり、発作だったり、考え方をもった人間であっても流されるようになった。
この世界に不必要な者達を隔離するために設けられたのが、この人口の島なのだ。


ー ー ー ー

 

生まれ育った環境や風土、文化から受けて染みついた習慣というものは、そう簡単には捨て去ることはできないだろう。
でもこの島に放り込まれた者達は、いち早くここでのルールに従わなくてはいけない。
それが出来ないものは生きてはいけないからだ。
実はこの島は、防犯カメラと上空からの衛星による監視は行われているが、無法地帯なのだ。人が殴られようが焼かれようが、この島の外からは何も干渉されることはなかった。
一度世界から省かれた者達がどうなろうと外の世界にとっては知ったことはない。
唯一の不安材料としては島から這い出て来て、再び世の中に悪影響を与えることくらいだ。
でも、その不安は「ボス」がいる島においては現実味を帯びなかった。
なぜならボスの存在はあまりにも大きかったからだ。
なぜか姿かたちが変わらず、150年ほど生きていて、この島に身を置くものは一定の周期で貢物を差し出さなければならなかった。
求められる物は各々に伝えられていて、それはこの島で生きる上でぎりぎりの生活を強いられることに直結していた。その命令に逆らい、生き残っていた者はいない。
とても不幸なことに、ボスは誰よりも圧倒的に強かった。
群れることなく独りを好んだ為、力を合わせた者達からの襲撃にあうことが度々あったが、過去にボスに挑んだ者達は必ず返り討ちにあった。
噂によると人の心理が読めるらしく、襲撃の際も待ち構えていたかのように冷静だったそうだ。
この島の中でどんなに殺伐とした雰囲気が蔓延していても、ボスの一喝でそんな空気は薄められ、厄介なもめ事は鎮められるのだった。
様々な言語に文化、習慣が集ったこの島では、それらが反発したり融合したりを反芻しては繰り返し、それらは「ボス」の存在によって奇妙なバランスで成り立っていた。



ー ー ー ー 



そんな、ある日。
ボスが倒れていた。
口元からはとても人のモノとは思えない色の液体が流れ出ていた。
ボスは人間ではなかった。
わたし達は突然解放された。
が、どこに脱獄先があるのかを誰も知らなかった。
この島には島以外の地図、世界地図は存在しない。
囚人達の認識として、島の周りはずっとだだっ広い海が広がるだけで、たとえ50メートルを泳ぎ切ればどこかの国へ侵入できる距離にあったとしても、そこには決してたどり着けない大きな壁が存在していた。
ボスだ。
島から逃れようと思い立った瞬間に、なぜかボスが目の前に現れ「制止」されられるからだ。過ちを犯した囚人は、薄れゆく意識の中で絶望を悟るそうだ。運よく命が残った者は、二度とそんな大それた想いを抱くことの出来ない、腑抜けのような生き物へと生まれ変わった。
ボスが壊れた今、わたし達は野に放たれたはずなのに虐げられていた習性が抜けることは無く、またボスの代わりがやってくるのではないかという不安や恐怖心から静かな生活がしばらく続いた。


ー ー ー ー

ボスが目の前で錆びついている。気味悪がって誰も触れられず、放置され続けている。
あれから一年経ったが、ボスの代わりはやってこない。
不思議なことに、あの日からは囚人もやってこなくなった。
徐々に治安が悪くなり始めたこともあったが、この島で生まれ育ったわたしのような者達が集まり、自分達にとって厄介な者達を少しずつ削っていった結果、今では本当に穏やかな生活を送られるようになった。

「おーぃ!」
派遣していた偵察部隊が帰ってきたようだ。
報告内容はおおかた予想した通りだった。
島の外には何もない。
本当にその通りだった。
世界はこの囚人達が生活する島を残して滅んでいた。
「ここから、新しい世界を創ろう。この箱舟から…」