「彼は突っ立って背を向けたまま、何をかちゃかちゃと手元を動かしているんだろう。水をそんなに流し続けて、彼はいったい何をしているのだろう…ってきっと、そう遠くない未来に生きる、未来人に好奇の目で見つめられている真っ最中なんだと、ボクはそう思うね」
「急に不満げな顔で振り向いて何なん。何なん、ボクちゃん?」
「これさ、洗い物だよ。スポンジに洗剤をしみこませて、それからコップや食器やお鍋を磨くこの行為。
水を汚して、泡々になったそれを排水溝に流して、嗚呼、いったいこれはどこへ流れ着くというのか」
「浄化槽に行くんやろ?」
「おいおい、ちょっと待ってくれよ。今、テキトーに言ったね。
ボクはね、いつも食後に洗い物をしていて思うんだ。
ほら、今、未来人が言ったよ。
これのいったいどこが汚れを落としているのかってね。
近い将来、本当の意味で汚れを落とすってこういうことなんだよって、誰しもがその新しい生活を、ホンモノの食器洗いを認識する時代がいつか必ずやってくるんだよ」
「は?つまり、現状の洗剤ごときでは完全に汚れは落としきれていないと、キミを未来人が残念そうな顔で覗き込んでいるわけ?キミの耳元で未来人が残念なコメントを述べているところかい?」
「そう、そうなんだよ。やっとボクの言っていることをわかってくれたかい?」
「おいおい、キミ。何か勘違いしちゃいないか?
いいか?よく聞けキミよ。
今しか価値の置けない、今しか信じられないことだってあるのだよ。
キミが言う、未来ではバカらしくてやってらんないことを、キミはあたしに「ありがと」と言われながら、任務を遂行するという、類まれなる時代を、今、この瞬間、この時をあたしと共にいきているのだよ」
「…誇らしげな顔して…なんなんだよ」
「今日もキミに感謝してあげてんの」
「そうか。…それはそれは、どうもありがとう」
「こちらこそ、どういたしまして」
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