ブレインエクスチェンジャー

2024-07-08

妄想話

酒類も禁止薬物扱いになった昨今、相変わらず精神疾患が現代病としてはびこっている。

脳波をコントロールして鬱や不眠症状を改善する医療アプリとして認められているものがあったが、巷ではそれを改造した「ブレインエクスチェンジャー」なるアプリの使用が事実上黙認されている。

瞬時に眠りに入ることが出来る睡眠導入モード、どんなに仕事でストレスを与えられようと平気になるメンタル皇帝モード、今を生きる喜び、幸福感が溢れ出るハッピーバースデーモード…。

人々は誰かに通話するようにして耳元へと、携帯端末を当てる。

様々なモードを切り替えて脳波を操り、人々は自らが望むモードで日々の生活をおくっている。


しかし、それでは満たされない者たちが溢れ始めた。

魔改造コードをダウンロードして個人と個人の脳波を乱糸させることで、他人の脳内に入り込み没入感を楽しむ「覗き見」が起きている。

その中で他人のライフハック能力を探り、自身の能力に組み込むことを繰り返し、漫画の世界の人物のような超人へと自身の能力を高めようとする者たちが増えている。

中には望まぬ者が拘束され、強制的に侵されるという犠牲者があらわれ問題となっている。

また、その代償として神経麻痺、慢性的な眩暈に頭痛障害という後遺症が起きることが既に報告されている。


私はそれが危険なことと知りながら、どうしても興味を持たざるを、縋るざるを得なかった。

もう、仕事に、不安に追われる日々から常時逃れたくて、何者でもいいから楽に、解放されたかった。

気付けば、なけなしの貯金をはたいて違法アプリをダウンロードしていた。



 ー ー ー ー ー



…気付くとベッドの上にいた。

記憶が定かではないがどうやら違法アプリ中毒に陥り、この病棟に収容されたようだ。

周りを伺うと広間にベッドがいくつも並べられ、周りには同じく違法アプリ中毒によって入院している者たちが敷き詰められていた。

ふわふわと、看護医師ロボットが私の元へ近寄ってきた。


「気が付かれましたね。

 脈拍、血圧、異常ありません。

 ただ、まだ脳波は…様子を診ますので。

 安静になさっておいてください…」



数日後、なんとか退院した私の元に一通のメールが届く。


「その後、具合はいかがですか?


 現在、関係者指示の元、アプリ中毒患者の容態検診、データ解析を行っております。

 

 もし、よろしければ、超魔改造コード、おダウンロードいたしませんか?


                                                                       ▶    Y e s


                                                                          ▷    ..n.o..     」