闇の語源と催眠術

2018-05-07

妄想話

他人の生き方を肯定するということは、自分のいまの生き方を否定することにならないか、という一文を、読みかけの本の中にみつけたあたし。
他人に当たる人物とは。
職場の人間がピラミッド型に描かれた人物相関図を脳内に広げて、その中からその他人に適合する人を思い浮かべてみた。
すると思いのほか気が萎えてしまい、その職場でいつもするみたいな苦笑いを浮かべているあたしがまた今ここに居ることに嫌気がさしたところであかりを消した。

寝付けない頭と体。
それが寝苦しさの根源として手繰り寄せたものは、枕元にあった一本のペンだった。
親指でペンをノックしてペン先を押し出したものの、何か書こうという気は一切なくて、別に何も思いつかなかったはずで、手の内で転がしている間に誤って一筋の線を腕に引いたところで色々と諦めた。
はじめから何の決意などないというのに、諦めがいいものでしょう。
だから今すぐ眠らせて。
うつ伏せになっていた体をひるがえすと、はじめから無抵抗なはずの体から更に力が抜けたようで、ペンを握っていない反対の腕がベッドの脇でおとなしくしていた加湿器に向かって加速度的な弧を描きながらけったいな音を立ててぶち当たった。
声にならぬ声ならはじめから上げなければいいのに、その声にならぬ声を試行錯誤して苦しみぬくことに価値を置くような音を模索していると、もうなんだかどうでもいいけど、どうでもいいですが、という類のとりあえずの言葉に変わった頃、ペンは相変わらず負傷しなかった方の腕の方にあり、そのペンを頭の上から目線の先、そしておでこの上へとゆっくりと動かしていると、それが偶然見つけてしまった催眠術のようなものだったのではないかと後々思うことになるのだが、その秘術は本物だったようで、でも実はこのペンの動きには他にもほっぺたのあたりや耳の裏などのツボを押していたような気がするのだけれど、それが一体どんな手順だったのかが目覚めた今となってはもう分からず終いとなっていて、つまりはそのおでこにペンを置いたが最後、瞬間的に眠りについてしまっていたという、そういうことです。