優しい世界への岐路

2022-06-13

妄想話

人体の秘密、不思議が昨今、急速に解明されつつある。
特にこれまで大まかにしか分類できなかった体調不良、不具合に医学的な病名が付き、病気として社会に認知される流れが強く起きている。
これは診断技術の革新。医療AIがあげた功績だと断言できる。
AIによる身体の探索は詰まるところ、我々の多くがインストールしている健康アプリが大いに役立っている。
国民がこのアプリで各々の健康データを随時提供する見返りとして医療費が割り引かれ、日々の運動データによってポイントが貯まり、商品が届くというおまけ付き。
老若男女問わず登録しており、普段使い、日常生活におけるガイドとしての機能も信憑性も得ている。
通知設定をONにしていれば個人の持病を対面している相手や周囲に知らせることも可能だ。たとえば身体の不自由な者の接近。突発的な体調不良者、怪我人の発生などなど、突然具合が悪くなっても周囲の手助けや理解が得られる。
最近ではHSP、多汗症、赤面症、吃音症、腋臭症を通知設定ONしている者も存在している。
スプレーを挨拶がてらに「これ、新作ですよ!」なんて吹きかけ合い、談笑する日常風景も以前の社会では見られない光景であった。
誰しもがどこかに体のウイークポイントを抱えている、それを認め合う社会の形成がここに整いつつあるのだ。

 ー ー ー ー

「あれ?新人君、急に屈んでどうした?」

『すみません、なんだか体調が…あれ?熱も出てきたような…』

《ピピッ...!!》
お互いに装着したメガネ型端末にアプリからの通知が表示される。

「おいおい、なんだよ。仮病かよ。おどかすなよ」

『はい、午後からの営業先が苦手でそのこと考えていたら、ついつい…』

「…そうなのか?…で?」

『はい!とりあえず現状では定時くらいまで治りそうにないとの即時診断結果が出てます。ですので、これにて失礼します。おつかれさまでした~』

「おぉ。そかー。おー。じゃぁ、また、明日な~」