夕暮れが迫れば吐く息の白さも暗闇に溶けていった。
大きな御神木を背にして、下から登ってくる小さな灯を待っていた。
大事な話と合わせて、何かでそれを形にしようと考えてみたものの、そのどちらも定まらぬままここにいる。
村人の先祖代々がどんなに遡ってもずっと昔から大きかったと言って祀られてきた、その大木の根元を目指して、ああでもない、こうでもないと灯は時々迷い揺れながらもなんとか近付いてきた。
あぁ、その姿が分かるようになったところで。
手を上げた、その後のこと。
脇元から首元へ、太く湿った縄のようなものが巻き付き、それは口元も塞いでいた。
呻き声も出せぬまま、大木の幹で背中がズル剥けに割けるも構わぬ勢いで身体は上っていく。
視線の先、根本には熊よりも大きな黒影がメリメリと太い腕で引っ張り上げる。
その長い長い綱のようなものの正体は大蛇の躰であった。
カラカラと滑車で運び出された、掘削場の土砂がボロボロと滑り降りるように、私の身体から色々なものが絞り出され零れ落ちた。
捻り上げられ、バラバラと音も立てる間もなく。
最後に見たのは、娘が大きな生き物に着物をはぎ取られ、蔽い被さる横で燃え上がり始めたくすぶった煙であった。
ー ー ー ー ー
呻き声を上げながら、執拗に貪る獣はあたしの想像するような天狗の姿ではなかったが、類なのだと思った。
道中を照らした灯は枯れ草で燃え上がり、油分を蓄えた神木の枝木を、移り爆ぜながら上へ上へと燃え上がって、最後に吊り上げられていたあの人に燃え移った。
頭だけ残して、燃え尽きる前のあなたは身体だけで空から落ちてきた。
太い斑模様を幾重にも重ねた大蛇がスルスルと忍び寄り、あなたの顔を尻尾の先でコロコロと転がした後、撓りを効かせて叩き潰した。
大きな黒い影は躰を起こすと大蛇の背に跨り、そのまま山の奥へと消えていった。
囲まれた炎の中で、朽ちて幹だけになった大木に身を寄せる。
熱さも寒さも在る中で、あたしはもう何も選びたくはなかった。
0 件のコメント:
コメントを投稿