妄想話

『FUKUMIMI』

ずっと愛用してきた「歩調器」が壊れたみたい。 いつものように目覚めて直ぐ、耳元にセットして起動してみたのだけれど反応がない。 とりあえず制服に着替えてみるものの、怖くて自分の部屋から出られない。焦る。 歩調器はなかなか高額なものだというのに、国内では着用率が90%を超えているそう...

妄想話

ゆびわのいえ

 「ゆびわ」をなくしていることに気付いたのは、タワー型登録借地を昇った後だった。 がらんとした平地を前に、左薬指を見つめて呆然としていた。 「ゆびわ」が手元にないということは、身に着けているもの以外のすべてを失ったということになる。 電話も財布も、わたしの身分を証明するものも何も...

妄想話

宇宙飛行士のうた

ー ○○さん、宇宙飛行士として、  宇宙から地球を眺めた今、思うことはありますか? - 「…あのですね…たぶん、それなりに言葉を用意してきたはずなのですが、それが今の心境に合わないからでしょうか…。 ごめんなさい。やっぱり、それらしい言葉が出てきません。 …あぁ、でも本当にね。 ...

妄想話

遺思~妻とまだ見ぬ我が子へ~

二人で、静かに食事をしていた。 少し離れたところで、テレビが音を立てている。 ニュース番組は「少子高齢化問題を抱える政府の試み」と題して、ある一組の老夫婦を取り上げていた。 その夫婦は、子どもを育てるだけの経済的余裕がないままに結婚し、30年が経過している。年齢的に考えるとすでに...

妄想話

雨上がりのあしあと

 ー わたしが   いじめに遭う 理由にたどりつくまでに   死ぬことにした ー    ・ ・ ・ ・   突然。 体に衝撃を受けて、倒れ込んだ。 誰もいないと思っていた廊下の影から、スカートを揺らしながら足早に三人の影が去っていった。 世の中では、いじめに遭う人は周り...

妄想話

深海図書館

  歪(ひずみ)というものがある。 どのような世界にも、ありとあらゆる、なにごとにおいてもだ。 この海底はきっと、そういった場所の一つなのだろう。 ゆっくりと、まるで花びらが海中を舞うかのように。 光を揺らしながら、一冊の本が降りてきた。 ようやく、安息の地に巡り合えたのだ。 ど...

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とびだしくん

  子どもの手をとり、行き交う車と距離を取る。 横断歩道の前で、信号が切り替わるのを待つ。 「…おとうちゃん」 私の娘は最近になって車を怖がるようになってきた。 不安そうな顔で見上げてくるので、つないでいる手を大きく上下に揺らしてみると少し表情が和らいだ。 目の前を忙しく横切る視...

妄想話

遅ればせの育児

拾い損ねた空き缶が足元に転がった。 重い腰を屈めると自分も老いたものだと思い知らされる。 これまでにわたしが飲み干したビール缶は、何千本くらいに及ぶのだろう。 振り返れば、それぞれの場面には必ずお酒が絡んでくる。 仕事終わりに、寝る前に、休日に。365日、それを何年も繰り返した。...

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ならず者たちの巣くう島

この世の中には様々な国があって、肌の色や目の色、話す言葉が違う人達が集まって一つの世界で生活をしている。 そして、各々の国で蔓延っている歴史に文化、宗教というものがあることをわたしは知っている。 …島から一歩も出たことがないのに。   ー ー ー ー   わたしがこの小さな人工島...

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誓いの言葉

小さい頃は、ただ生きてさえいればいつか結婚して、どこにでもあるような家庭を築いていくのだろうと、たぶんそんなことを考えていた。 それは誰にでも平等に、じっと待つまでもなく、いずれ自然と訪れるようなものだと思っていた。 でもいつしか、それがただ出席さえしていれば進級資格を得られるよ...