白い空間『灰色の均霑』
目の前が真っ白に染まった。 いつものことだ。 現実世界で眠りに入ると、私は白い空間に誘われる。 その原因はわからないが、そんな定めの中に私はいる。 いつものように白い空間を彷徨い歩いていると無数の扉が現れはじめた。 どれか一つの扉を選択し、どんな世界が待ち受けていようと踏み込まな...
黒の時間-囚われの売買人-
預金通帳を開いたまま、ATMのすぐ横で立ちつくす。 貧弱な残高を見つめていた。 当然のことながら一円も入金はされていない。 この惰性な生活も2年目に突入した。 今となれば、感情に任せて唐突に仕事を辞めたことを後悔している。 未練がましく、振り込まれることのない未払い給与に期待...
「Blood found」
隣に座る彼女が面白いゲームがあるから、と小声でささやきながら、俺の開いたノートの上に通信端末をもってきた。 なんで授業中に、このタイミングで。 相変わらずこの娘の考えが掴めないなぁ、と思いながらチラリと目をやると画面にはその掴めないはずの特徴を上手に捉えた、隣に座る彼女によく似た...
「瞳の中のアルバム」
店を出ると、寒空には月が浮かんでいた。 ちょっとだけ、洋服のバーゲンを覗いてみるつもりが、もうこんな時間に。 彼氏を誘ったが、どうやら荷物持ちになることをやっと学習したようで連れ出せなかった。 次に誘う時には、もう少し良さげな餌を撒く必要がありそうね。 白い息を吐きながら、駅...
右腕を差し伸べて、左手で、
まだ明け方で部屋は薄暗かった。 うつ伏せで寝ていたからだろうか。 顔の下に敷いていた左腕に、よだれが滴っていてみっともないなと感じる。 もう片方の右腕はというと、何かを掴もうとするかのように前方へ伸びている。 でもその先には見慣れない壁があるだけで何もない。 そうだ。 あたしは...
「解体屋のたしなみ」
これは何も、過疎化が進んだ地方の話だけではない。 住人が居なくなり、取り残された空き家がこの国では増えている。 都会の片隅でも注意して歩けば、老朽化したまま放置された民家やビルは案外すぐ見つかるものだ。 俺は、そんな主を失った建物を解体する会社で働いている。 職場環境は屋外とい...
「戦場と書簡と最後の嘘」
「担当の編集者から度々打診されてはいましたが、これまでに自分のことを語ることはありませんでした。 そんな私が自分語りするのはどうも不慣れでむつかしく感じるので、小さな頃からのエピソードなどを順に思い返して語ろうと思いますがよろしいでしょうか?」 「はい。どうぞ先生の...