妄想話

降り積もる夜に

寒空を見上げると雪雲の合間から、半分欠けた月がのぞいていた。 薄く雪の積もった、真っ白な地面が月夜に照らされている。 懐中電灯の明かりを消してみても、薄っすらと足元が見える。 田んぼと畑しかないこの集落には、古びたアスファルトの道が一本あるだけだ。 その道を外れ、あぜ道に...

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虹の足元にあるもの

細かい、雨とも言えないようなものが空から降ると同時に日が差した。 そんな午後。 残業が連日続き、やっと訪れた会社休みの今日だった。 気付けば昼まで寝ていた。 重い体を起こして、スティックコーヒーをお湯でさっと溶かしたが口にせず、テーブルの上に置いたままに椅子の上で目をつぶっては開...

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主婦(主夫)だって稼げる「わが家ベストテン」~もしも飲食店を開けたら~

いつの間にか、駅裏にあった空き店舗の改修工事が終わっていた。 外装は商店街にあるような大衆食堂の造りをしている。 それでいて見上げた看板には 『わが家ベストテン』 となにやら書かれており、歪な印象だ。 ここは以前、オシャレな老舗イタリア料理店だった。 2年前に他界した夫と、若い頃...

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一肌脱ぎましょうか?~人肌恋しいあなたに捧ぐ~

交流アプリサイト『観るだけならタダ』に書き込んだとおり、予告した時刻に駅前で待つ。プロフィールに顔を載せているので、私を探している者はスグに気付くはずだ。 駅前の電光掲示板で今日の気温を確認する。 「天気:晴れ 最低気温1℃」 今季一番の冷え込み様。 絶好の仕事日和だ。  ...

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私の中の「ぎゅんぎゅん」

帰宅途中の電車の中で、急にお腹の調子がおかしくなる。 私は周りも認める極度の心配性だ。 心配事を抱え込み、それが膨らんでいくと急にお腹を壊すのだ。 下腹部から「ぎゅんぎゅん」が鳴きだす。 「ぎゅんぎゅん」は私をトイレの個室へいざなう。 「ぎゅんぎゅん」を鳴き止ませるには、その個室...

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日向ぼっこする生きもの

突如、消えてしまった太陽。  観測データを遡ってみても、太陽の活動周期に狂いが観測されたことはなかった。 しかし、現に太陽は我々の目の前から忽然と消えた。原因不明である。 これまで太陽の終焉とは、徐々に赤く膨れ上がり巨大化していき、投げ捨てる様に纏っていた外装を解き放ったのち、お...

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作文「ぼくのかぞく」

ぼくのいえには冷蔵庫がありません。 ぼくがもっと小さいころにはありましたが、今はありません。 ひっこしした時に、前の家においてきたそうです。 ぼくのいえは大家族です。 おとうさん、おかあさん、おにいちゃん、おねえちゃん、 まんなかのおにいちゃん、ぼく、おとうと、いもうと...

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規定打席に達さないホームラン王

  「…どこで生き方を間違えたんだろう」   独房というせまく限られた部屋の中で、苦しみだけが自由にのたうち回ることができる。 日々の積み重ねの中で、数えきれない選択を繰り返して今日まで生きてきたはずだ。 それは決して「死刑執行を待つ人生」を願って「犯罪」というカードを引き...

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SayClub

最近、暇つぶしとしてハマっているサイトがある。 『SayClub』というサイト。 「音声チャット」で会員同士の会話ができる。 会員登録は身分証明のデータ添付有りきだから、すぐに入会できるわけではないけど。   操作は簡単で、ログインしたら2つのボタンがあるだけ。 「通話ボタン」を...

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嫁はテレビを消すとき、リモコンを俺に向ける

「本当に消えたらどうすんの?」 『消えないわよ、バカじゃないの』   「…もしもだよ」 『もしも消えたら面白いね』   「面白くねぇょ」 『リモコンで出たり消えたりする男って、テレビに出られるんじゃない?』   「…儲けられるかなぁ」 『まぁ、世界に一人だから...

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大泥棒の介護「とっちゃん、俺はここにいるぜ」

誰もが他人には決して言えない過去が一つくらいはあるだろう。 俺に関して言わせてもらうなら、実はこれまで「泥棒稼業」をなりわいとしてきた。 何度となく逮捕されそうになったが、その度に死線を乗り越えてきた。 思えば、幾度となく対峙した警部がいたからこそのドラマチックな泥棒人生劇...

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ドローン狩りが海原で見上げた空

今日も上空を飛ぶ「ドローンマシーン」に照準を合わせる。 国境を超えて空を行き来する「ドローンマシーン」が話題になりだしたのは、私たちが「国際社会」から認知されたころだった。 10年前までは私たちに直径5キロの小島が与えられていた。 その島は国として扱われ、世界地図にも載っていた。...