「本当に消えたらどうすんの?」
『消えないわよ、バカじゃないの』
「…もしもだよ」
『もしも消えたら面白いね』
「面白くねぇょ」
『リモコンで出たり消えたりする男って、テレビに出られるんじゃない?』
「…儲けられるかなぁ」
『まぁ、世界に一人だからね』
「転職か?」
『よかったね』
「でも、すぐに飽きられるんじゃないの」
『そこはキミしだいだって』
「…じゃぁ、やめとくわ」
『…』
「だから!俺に向かってリモコン押すなって!」
『( ゚∀゚)アハハ』
・・・・・・・・30年後・・・・・・・・・・・・
「…テレビにリモコンがあった頃が懐かしいなぁ」
『…ねぇ。アナタに向けて「消えなさい」ってやってたわね』
「あぁ。…確かそうだったかな?」
『そうよ、確かにそうだったわよ』
「…お互いに過ごした思い出話も、こうやって時々は話を合わせないと。
なんだかね、忘れそうになる。ボクは、歳をとったなぁ…」
『そぉ?アナタは昔から忘れやすかったわよ。
…忘れても、こうやってまた思い出させてあげるわよ』
「…あぁ、そういえば。この前のお盆の時期に来た孫の映像をまだ見返してなかった」
『それね、観れなかったでしょ、壊れたのかもしれないわ』
「そうだったか?」
『そうよ!?もう…』
・ ・ ・ ・ ・ ・
テレビという映像を映す設置型家電が消え始めたころ、一時的に流行ったモデルがある。
機能の一つとして、玄関や居間などに設置したカメラで家庭内を記憶し続けてくれる監視型テレビだ。
私の前に、そのレトロなテレビがある。
壊れているのでなんとか修理して欲しいと、この修理専門会社に持ち込まれたモノだ。
今は昔と違って、いかに古い家電を使い続けていくかに価値が置かれている。
手に入らない部品を工作機で作り上げる。
テレビに残っていた記憶媒体は、最新のものにコピーして復元させる。
捨てられそうだったモノが息を吹き返す。
私はその瞬間がとても好きで家電修理の仕事を続けている。
動作チェックにはいる。
音声認識操作に少しだけ難があるが、元々備え付けられていたマイクの性能がよろしくなかったからだろう。
注文内容は「テレビに残された映像をみられるように」とのことだったのでその案件を優先する。
どうやら、映像自体は問題ない。
テレビには持ち主の家庭の記録が映し出された。
このテレビは老世帯が若い頃に買ったモノのようだ。
ブックマークされていた映像を再生してみる。
映し出された小さな子はおそらく息子だろう。
映像を追っていくと、夫婦の、家族の日常が記録され続けていた。
喧嘩をしている場面もあれば、お腹を抱えて笑い合う姿もあった。
家族が増え、賑やかに泣き笑い、この家電はその歴史を見守り続けた。
依頼主には早く送り返さなければ。
年の瀬。また、家族に新たな物語が生まれる。
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