取扱説明書があれば、それについてはまぁとりあえず扱える。
そういう人は世の中に多くいると思う。
取扱説明書はパラパラとめくる程度でじっくりとは読まないが、そのかわりにとにかく触ってみて覚えていくスタイルの人も世の中に多くいると思う。
取扱説明書をどんなに読んでも理解できず、いつも他人を頼るひと。
そういう人も少なからずいる。
わたしの場合は少し違う。
どう違うかを説明するその前に、まず、伝えておかなければならないことがある。
わたしの趣味は「取扱説明書」のファイリングだ。
今まで手にしたモノに付いていた「取扱説明書」を全てファイリングして置いてある。
わたしなりの流儀がある。
「取扱説明書に書かれてあることは全て目を通し、実行する」
安全上の注意点には当然目を通す。
各部の名称では、書かれている図と製品を見比べて確認する。
仕様に寸法や質量が書かれてあれば、それも実際に確認する。
使用方法、トラブルへの対処…疑問点があればそこかしこにペンでメモ書きしていく。
一通り目を通して確認できたら、そこではじめて実際に使用してみる。
そして、そこでも思うことがあればペンをとる。
書かれていることは全て試す。
実行してみて疑問点が生まれ、それが解決しなければカスタマーセンターに電話してみる…。
しつこいほどに電話で質問してしまった時、開発担当者が直接電話口に立つことがある。こんなわたしの性格が災いしたのだろう。喧嘩になり、実際に会って話をするというので、そういう時のわたしは本当に行かせてもらう。
話の中でわたしの『取扱説明書』を開くとなぜか担当者が笑顔になる。「次回、当社の製品を買った時は是非ともその『取説』を見せて欲しい」そう言われた。
…そう言われたことが何度もある。
実はこれまでに何社もの「クレーマー対応」を受けているが、その会社から新製品の取扱説明書がカタログ代わりに送られてくるという関係柄にいつも発展してしまう。
…まぁ、とにかくそれらがわたしの中で消化されて、やっとファイリング作業へと移る。
この最終段階に入るころ「取扱説明書」はわたしの手垢とペン入れで使用感満載だ。
表紙の右上にナンバリングを押す。
この瞬間は心の底から喜びが湧いてくる。
コレクションが新たに加わった瞬間だ。
ただ、これからはこの趣味ことは内緒にしようと思っている。
何故かこの趣味が知られると、周りから人が去っていく。
三か月前まで付き合っていた彼氏には、
「ごめん、取説と向き合ってる時の表情が受け付けられなかった」
と電話で別れを告げられた。
そんな「説明」で納得できない、消化できないとわたしは泣きに泣いた。
気付けばペンをとっていた。
現在『わたしの彼氏にふさわしい人』という取扱説明書を作成中だ。
これをファイリングする時、それはきっとわたしが結婚する時だ。
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