余白と気配の物語:『其処此処』の冒頭(詩的散文)
其処にいたのか。
此処にいたのか。
風が通りすぎたあと、誰かの声が残っていた。
それは名を持たない、けれど確かに私の中にいた。
ひとつの影が、もうひとつの影を踏んで、
ふたりの記憶が、ひとつの場所をめぐって、
やがて、どちらのものでもない風景になる。
其処と此処のあいだに、
私は立っている。
立っている、というより、
まだ、ほどけていないだけかもしれない。
風が来た、また他の何処かへ。
『其処此処』という空間
ある日、私は「其処此処(そこここ)」と呼ばれる世界に迷い込む。そこでは人々に「名前」はなく「気配」で呼び合い、記憶は風に委ねられている。私は、自分の「此処」を探すうちに、誰かの「其処」と重なっていたことに気づく。やがて、それらが消えるとき、私は「私」という輪郭を手放す決意をする。
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