妄想話

金銭トレードされた、ある日の『流れ社員』

 終身雇用という言葉も死語となり、昔と比べればずいぶんと変わった形の労働スタイルが生まれている。 とはいえ、やはり自分の身をそこへ投じてみると戸惑うことも多々ある。 「あー、渡辺君?」 「はい」 「悪いんだけど、明日から栄耀県に行ってくれる?」 「は…?」 「は?じゃな...

妄想話

ノストラなんとかの大予言

巨大な隕石の襲来は、300年前に観測予想されていた。 人類滅亡の危機は、何世代にもわたって知力を合わせた結果、何とか回避できた。 徐々に削られ、いくぶん小さくなった隕石。 それが昨日、直近のひと月前に公表されていた場所へ、予想時間通りに落ちたのだ。 警報が解除されたので、私はこれ...

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ありとあらゆるぶぶんが緩む

あぁ、この人は本気で怒ってるんだなぁとは思った。 耳をつんざくような大きな声で、中年の女性が怒っている。 でも、なんでこんなに怒ってるんだろうか、私の目の前で。 自分が悪いのだろうか。 その原因を覚えていない。 ぼんやりと遠くの方から、私を批難する声が聞こえる。 もごもごと返事を...

妄想話

誰だょ…こんな嘘発見アプリ作った奴…「あなたの真心がわかっちゃうんだもの」

スマホを私の方へ向けたかたちで、玄関先で彼女と向き合った。 「だいたい3週間ほどだったかな。会話データの『収集完了!』が表示されたのは。密かにね、はじめていたの」 目の前にいる彼女の言葉の意味が、さっぱりわからなかった。  ー ー ー ー あの日は五日前だった。 同棲中の彼女は、...

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「箱庭まいぺっと」

深夜の静まった家々の脇を、重い体を引きずるようにして歩いていた。 そういえば最近、太陽の光を出勤時間以外では浴びていないことに気付く。 仕事場ではパソコン画面とにらめっこし続け、休憩に食事も落ち着いてとれない。 その上に残業を連日続けているとさすがに身も心も病られていくのを感じる...