妄想話

ゆびわのいえ

 「ゆびわ」をなくしていることに気付いたのは、タワー型登録借地を昇った後だった。 がらんとした平地を前に、左薬指を見つめて呆然としていた。 「ゆびわ」が手元にないということは、身に着けているもの以外のすべてを失ったということになる。 電話も財布も、わたしの身分を証明するものも何も...

妄想話

宇宙飛行士のうた

ー ○○さん、宇宙飛行士として、  宇宙から地球を眺めた今、思うことはありますか? - 「…あのですね…たぶん、それなりに言葉を用意してきたはずなのですが、それが今の心境に合わないからでしょうか…。 ごめんなさい。やっぱり、それらしい言葉が出てきません。 …あぁ、でも本当にね。 ...

妄想話

遺思~妻とまだ見ぬ我が子へ~

二人で、静かに食事をしていた。 少し離れたところで、テレビが音を立てている。 ニュース番組は「少子高齢化問題を抱える政府の試み」と題して、ある一組の老夫婦を取り上げていた。 その夫婦は、子どもを育てるだけの経済的余裕がないままに結婚し、30年が経過している。年齢的に考えるとすでに...