妄想話

雨宿りの暮雨

狭い飛空艇の操縦席。 唸るエンジン音に耳が慣れてくると震える鼓膜の更に奥、私の脳は静けさを感じ始めていた。 仲間には仕事終わりに一息つく趣味のようなものだと告げているが、本音としてはどうだろうか。 ただ、今日のように空に昇りたくなる日は素直に従う。 雲を突き抜け、高度が安定してし...

妄想話

あかりのあるへや

そんなことがあるものかと、疑われて当然だとは思うが。 喧嘩をしてから実に4年間、私たち夫婦はずっと口をきかなかった。 子どもがいない、二人すれ違いの家庭生活を振り返ってみて何が残ったのか。 はじめは笑いの絶えない夫婦だったのにな、とそんな思いに耽りながら自室のベランダの柵から半...

妄想話

微睡みの記憶

医者の言う通り、ものわすれが激しくなっていることをいよいよ認めざるを得ないのだろう。 悪い足を引きずりながら居間に立ち竦んで、いったい何のために動いたのかを思い出そうとするのだが答えが見当たらない。 昨晩、娘との通話で何を言われたか。それがヒントのような気がするのだが。 母さんや...

無国籍活動集団「alias」

「戦場と書簡と最後の嘘」

「担当の編集者から度々打診されてはいましたが、これまでに自分のことを語ることはありませんでした。 そんな私が自分語りするのはどうも不慣れでむつかしく感じるので、小さな頃からのエピソードなどを順に思い返して語ろうと思いますがよろしいでしょうか?」     「はい。どうぞ先生の...